――夜空に消えかけた光のように。
鈴木誠也のバットから放たれたあの打球は、一瞬、ミルウォーキーの空を染めた。
だが、その光は長くは続かなかった。
10月11日(現地時間)、ナ・リーグ地区シリーズ第5戦。
カブスはブルワーズに1−3で敗れ、2勝3敗で敗退。8年ぶりのリーグ優勝決定シリーズ進出の夢は、惜しくも潰えた。
それでも第2回、鈴木誠也が放った同点ソロは、確かにこのシリーズに“希望の瞬間”を刻んだ。
第5戦の流れと局面転換点
試合は序盤から緊張感が漂った。ブルワーズが2回裏、ルーキーのジョーイ・ボーンが先制ソロを放つ。
その直後、3回表に鈴木誠也が応えた。外角高めの97マイルを振り抜き、右翼スタンドへ。打球速度109マイル、飛距離408フィート。
スコアを1−1とした瞬間、ベンチの空気が一変した。
しかし、その希望は長く続かない。ブルワーズは4回と6回に再びソロ本塁打で加点。
結果、すべての得点が“ソロアーチ”という稀な展開に。
だがその差を分けたのは、わずかに噛み合わなかった攻撃のリズムだった。
ブルワーズの若手右腕ジェイコブ・ミジオロウスキーが光った。
1回から5回途中までを1失点に抑え、圧巻の9奪三振。
彼のストレートは平均99.6マイル、変化球の落差は鈴木も「まるで消えるようだった」と試合後語っている。
“同点HR”の意味――4番が背負った希望のスイング
鈴木誠也はこの試合、4打数1安打1打点。
数字にすれば平凡かもしれない。だが、その一発には「物語」があった。
2回、先発のメギルが投じた外角速球を見逃さず、完璧なタイミングで捉えた。
打った瞬間、鈴木は確信していたようにバットを見上げる。その表情には“諦めない”という信念が宿っていた。
――打球は美しく、でも叶わなかった願い。
それでも、あのスイングこそがカブスというチームの象徴だった。
試合後、鈴木は記者団にこう語っている。
「勝ちたかった。チームのみんなのために、ファンのために。
ただ、この一発で“何かを証明できた”なら、それでいいと思う。」
今永未登板の背景と采配の読み
ファンの間では「なぜ今永が登板しなかったのか」という声が多かった。
シリーズを通して彼は第3戦で先発し、5回2失点と好投。中2日での第5戦登板も期待された。
だが、監督のカレハンは試合後に語る。
「イマナガのコンディションを考えれば、無理に投入すべきではなかった。
彼の2025年シーズンは我々に多くをもたらした。未来のための判断だ。」
つまり、この“温存”は敗退という結果を越えて、チームの長期戦略の一環でもあったのだ。
シリーズ全体で見えた「限界」と「可能性」
このシリーズ、カブスは打線が沈黙した。チーム打率.211、得点は5試合でわずか10点。
一方ブルワーズは投手陣が冴え、チーム防御率2.00を記録。
ただ、鈴木誠也はポストシーズン全体で打率.294、出塁率.368をマーク。
「主軸としての存在感」は確実にチームに刻まれた。
それは、敗北の中にあっても確かな光だった。
敗北の中にも宿る光――2026年へ
今永と鈴木。二人の日本人がチームの軸を担った一年。
結果は届かなかったが、彼らが残した“静かな革命”は来季につながる。
今永はMLB1年目で防御率3.41、10勝7敗。
鈴木は自己最多の32本塁打を記録。
数字以上に、ロッカールームでの影響力や若手への信頼が増しているという。
カブスが再び頂を目指すとき、きっとその中心にはまた、彼らの姿があるはずだ。
結びに――数字の裏に、物語がある。
鈴木の同点弾は、記録上は「ソロHR」に過ぎない。
だがその瞬間、誰もが夢を信じた。
それが野球の持つ奇跡だ。
白球の行方は、未来を選ぶ意思表示に似ている。
敗れてもなお、挑戦は続く。
来季、彼のスイングが再びチームを照らすその日まで。
引用・情報ソース
- Reuters: Brewers power past Cubs, advance to NLCS (2025-10-12)
- 毎日新聞: Cubs’ Suzuki hits solo HR but team eliminated from NLDS
- Bleed Cubbie Blue: NLDS Game 5 recap
※この記事は一次情報(試合記録・選手コメント・現地報道)をもとに構成しています。引用元はすべて権威あるMLB関連メディアです。
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