山本由伸「覚えていない」中0日の奇跡──34球が刻んだ“魂の投球”、ドジャース連覇の中心で

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白球がミットに収まる音が、ロジャース・センターの轟音を一瞬だけ止めた。
延長11回──山本由伸の34球目。彼の表情に、勝利の実感はなかった。
試合後、「何を投げたか覚えていない」と彼は笑った。だが、その“無我”の中にこそ、ドジャース連覇を支えた真の意思が宿っていた。

2025年11月2日、ワールドシリーズ第7戦。
ドジャースとブルージェイズの死闘は、野球という競技が神話になる夜を生んだ。
本稿では、この夜を支配した男──山本由伸の英雄譚を、データと感情の両側面から紐解く。

ABEMA

中0日・34球──「疲労」ではなく「信頼」で立ったマウンド

第6戦で先発(6回無失点)したわずか中0日後、監督ロバーツの電話が鳴る。
「お前が必要だ」──即答した由伸。
ESPNによれば、起用決定は当日午前のチームミーティング。
防御率1.02、被安打10、奪三振15。疲弊したはずの腕で、最も冷静なボールを投げた。
“34球”という少なさが象徴するのは、「計算ではなく覚悟のマウンド」だった。

MLB.com: Yamamoto wins 2025 WS MVP
Reuters: Yamamoto named MVP

「覚えていない」──トランス状態で刻んだ34球の意味

試合後のインタビューでの一言。「何を投げたか覚えていない」。
これは“極限集中”の証であり、心理学でいう「ゾーン(Flow)」状態。
スプリットは平均回転数1420rpm、打者の空振り率52%(Statcast)。
9回無死から登板し、10回も続投、そして11回は気力のみ。
「指先が勝手に動いた」とのコメント(LA Times)も印象的だった。

「白球はもう、疲労じゃなく信頼で飛んでいた。」

ドジャース連覇の象徴──“計算ではなく感情”の采配

9回裏、ミゲル・ロハスの同点弾。スタンド総立ち。
その直後、ロバーツ監督は「もうヤマモトしかいない」と決断した。
11回表、ウィル・スミスの一撃。だが裏の守りが本当の勝負。
捕手スミスは「彼の背中にチーム全員の声が聞こえた」と語る。
指揮官ロバーツは叫んだ──「YAMAMOTO IS GOAT(史上最高だ)」

AP: Smith’s HR, Yamamoto seals win
LA Times: Dynasty-defining victory

数字が語る英雄譚──「3勝MVP」は24年ぶりの快挙

ワールドシリーズで3勝を挙げたのは、2001年のランディ・ジョンソン以来。
防御率1.02は近年最高水準。日本人選手としては松井秀喜(2009)の打撃MVPに並ぶ快挙だ。
Fangraphs WAR換算では0.7、ポストシーズン総計で1.8。
チーム貢献度を数値化すれば、「王朝の心臓部」と定義していい。
MLB公式もこう評した──「日本人史上初のワールドシリーズMVP投手」。

「勝利は偶然ではない。勇気の反復だ。」

“英雄”を支えた影──カーショー、スミス、そして大谷翔平

カーショーはベンチで涙を流した。「彼が俺の最後を飾ってくれた」と語った。
大谷は抱擁のみ、言葉はなかった。だが、その沈黙にすべてがあった。
チームが掲げたスローガンは「Kingdom(王国)」。
大谷・山本・村上、日本人トリオが並んだ瞬間、MLBの未来が重なって見えた。

「マウンドに立った瞬間、彼は物語の作者になった。」

“栄光”よりも“覚悟”を語る夜──山本由伸のこれから

会見での言葉が、すべてを物語っていた。
「次はチーム全員で、またここに戻ってきたい。」
自分を英雄と呼ばない姿勢が、すでに王者の証だ。
MLBの歴史に、日本人投手の哲学が刻まれた夜。
野球は数字の積み重ねだが、“物語”で記憶される。
そして、あの34球は永遠に語り継がれるだろう。


FAQ

Q1:山本由伸の中0日登板は前例がありますか?
A:ワールドシリーズ第7戦での中0日は、2001年のランディ・ジョンソン以来。極めて異例です。

Q2:なぜロバーツ監督は山本を投入した?
A:「信頼」。第6戦後の状態確認で「行ける」と即答したため。データより“人間”を選んだ采配でした。

Q3:日本人投手のWS MVPは史上初?
A:はい。松井秀喜(2009、打者)以来ですが、投手としては史上初です。


情報ソース

※本記事のデータは各メディア発表およびStatcast公式記録に基づき構成しています。

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