第1章|雪辱の夜に取り戻した“間合い”――山本由伸、完投の111球
初回、ジャクソン・チュリオに先頭打者アーチを浴びた。それでも山本は崩れない。そこから14者連続アウト。カーブで間合いをずらし、スプリットで地面へ吸い込ませる。最後は空振り三振で締めて、メジャー移籍後初の完投勝利がポストシーズンの舞台で完成した。
「最後まで、自分のボールを信じて投げられた。達成感がすごくあった」
―― 山本由伸(試合後)
この完投はMLBポストシーズンで8年ぶり、ドジャースでは2004年以来の記録とされる。試合はミルウォーキーのアメリカン・ファミリー・フィールドで行われ、敵地の重圧を技術と胆力で上書きした格好だ。テオスカー・ヘルナンデスとマックス・マンシーのソロ弾が早い回に援護を与え、試合の主導権は終始ドジャースへ流れた。AP通信/ロイターの双方が「3安打完投」「111球」「7奪三振・1四球」を確認している。
▶︎ 111球。3安打。1失点。だが、それは数字の物語に過ぎない――挑戦の痕跡だ。
▶︎ 先頭打者弾を浴びながら、彼は静かに9回を制した。
第2章|“非不正投手”として刻んだ潔白の完投――バーランダーへの皮肉とファンの喝采
この完投には、もう一つの文脈がある。米メディアSportskeedaは「2017年バーランダー以来、“非不正投手”としてポストシーズン完投を果たした初の投手」と煽り気味に報じ、SNSでは「#CleanAce」の言葉が踊った。17〜18年に露見したアストロズのサイン盗みは、いまもMLBの記憶に影を落とす。ゆえに、山本が磨き上げた9イニングは、“クリーンな完投”としてファンの感情を強く揺さぶった。
誇張や誤解を防ぐための補足も必要だ。バーランダー個人が処分を受けたわけではないし、公式記録が抹消されたわけでもない。それでも“チーム由来の不信”が残るのは事実で、ドジャース右腕の111球が、競技の信頼を取り戻す象徴として語られている、ということだ。
▶︎ 「ようやく信じられる投球に出会えた」――SNSに流れた短い言葉が、この夜の全てを語る。
第3章|沈黙を破る一打――大谷翔平の適時打が灯した援護の火
4試合ぶりの安打は、価値ある一打となった。7回1死三塁、左腕アシュビーの変化球を捉えた打球は、右前へすっと落ちる。その一本でリードは3点に。山本のテンポはさらに上がり、完投への道は一気に照度を増した。ロイターは、この適時打を「勝利を決定づける援護」と位置づけている。
この10月の大谷は“らしさ”を模索していた。だからこそ、このシンプルな適時打が持つ意味は重い。チームの勝ち筋へ、確かな1点を置いてくる――ポストシーズンで最も価値があるのは、派手さではなく確度だ。
▶︎ 静かな一撃が、完投の輪郭をくっきりさせた。
第4章|“現代への逆走”――先発を信じ切るドジャースという選択
ブルペン総力戦が標準装備となった現代の10月に、ドジャースはあえて「先発で押し切る」という逆走を選んだ。第1戦のブレイク・スネルが8回無失点、そして第2戦で山本が完投。MLB.comは「多くのチームがジグ(小刻み継投)なら、ドジャースはザグ(先発深押し)」と表現する。シリーズはロサンゼルスへ移動し、流れは完全に青く傾いた。
▶︎ 過去の記録を塗り替えながら、彼らは未来へ投げ込んでいる。
データで振り返る|山本由伸の投球成績(NLCS第2戦)
- 投球回:9.0
- 球数:111
- 被安打:3(先頭打者HR含む)
- 失点:1
- 奪三振:7 / 与四球:1
- 結果:完投勝利(ドジャース 5-1 ブルワーズ)
- 試合日時:現地 2025年10月14日(日本時間 10月15日)
- 球場:アメリカン・ファミリー・フィールド(ミルウォーキー)
- 映像ハイライト:MLB公式:7奪三振まとめ/試合締めの空振り三振
エピローグ|10月の証明
雪辱から再生へ。111球の中に込められていたのは、数字ではなく信頼の重さだ。大谷の一打が照らし、山本が貫いた9回が、チームの未来を変える力を持つ。10月14日――挑戦者たちが自分たちの正義を証明した夜は、MLBの歴史に静かに刻まれる。
FAQ
Q1. 山本由伸の完投は日本人初?
はい。主要メディア(MLB.comほか)が「ポストシーズンで日本人投手の完投は史上初」と報じています。
Q2. なぜ“非不正投手”という言い回しが話題に?
2017〜18年のアストロズによるサイン盗み発覚以降、過去の完投記録にも“チーム由来の不信”が残ったため。Sportskeedaが煽り気味の見出しで報じ、SNSで拡散しました(公式見解の変更ではありません)。
Q3. 大谷翔平の第2戦成績は?
4打数1安打1打点。7回に右前への適時打でリードを拡大しました(ロイター)。
情報ソース(一次・権威/原典リンク)
本記事は現地日時2025年10月14日(日本時間15日)の試合に関する一次情報・公式発表・主要通信社の報道をもとに執筆しています。スコア、投球内容、記録の歴史的文脈(「ポストシーズン8年ぶりの完投」「ドジャース2004年以来の完投」等)は、AP、ロイター、MLB.com(ゲームリキャップ)、記録特集のMLB.com(サラ・ラングス)、戦術的論点のESPNに基づいています。話題になった「非不正投手(non-cheating)」の表現はSportskeedaによる見出しで、SNS上の反応を伝える文脈で引用しています(公式記録の変更・断定的評価ではありません)。各リンク先の詳細・更新により表現が一部変わる可能性がありますが、初出時点の要旨を適切に参照しています。
- AP News: Yamamoto throws 3-hitter as Dodgers beat Brewers 5-1
- Reuters: Dodgers grab 2-0 NLCS edge on Yamamoto CG
- MLB.com: Masterful Yamamoto throws 1st postseason CG in 8 years
- MLB.com: 9 wild facts about Yamamoto’s outing
- ESPN: Yamamoto follows Snell with rare feat
- Sportskeeda: “First non-cheater to throw a complete game” 見出し
- MLB公式動画:7Kハイライト
※注意:Sportskeedaの「非不正投手」という表現はファン文脈のバイラル表現であり、公式機関による断定ではありません。記録の価値を貶める意図はなく、当時の社会的受容を報じるために限定引用しています。
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